青森家庭裁判所八戸支部 昭和41年(少イ)1号 判決 1966年8月09日
被告人 小笠原克洋
工藤信行
主文
被告人両名をそれぞれ懲役四月に処する。
被告人工藤信行に対し未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。
被告人小笠原克洋に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(事実)
被告人両名は共謀のうえ昭和四一年五月九日午前一一時頃青森市大字大野字長島四〇番地谷藤勝秋方において相馬勝義に対し児童である○藤○子(昭和二五年三月二八日生)並びに同○下○子(昭和二五年一月一一日生)の両名が風俗営業経営者に接客婦として引渡される虞があることを知りながら右両名を引渡したものである。
(証拠)(編略)
(累犯前科)
(一) 被告人工藤信行
(イ) 昭和三六年四月一七日、札幌地裁室蘭支部、恐喝暴行罪、懲役八月
(ロ) 昭和三七年六月二六日右支部、傷害罪、懲役八月
(ハ) 昭和三八年五月一四日右支部、傷害罪、懲役一〇月
に各処せられ、既に執行終了
(二) 証拠、被告人工藤の当公判廷の供述、同被告人に対する前科調書
(適条)
判示各事実(児童福祉法違反)
同法第三四条第一項第七号、第六〇条第二項
刑法第六〇条(懲役刑選択)
被告人工藤信行に対する累犯加重
刑法第五六条、第五七条、第五九条
被告人工藤信行に対する未決算入
刑法第二一条
被告人小笠原克洋に対する執行猶予
刑法第二五条
被告人両名に対する訴費免除
刑事訴訟法第一八一条第一項但書
(弁護人の主張についての判断)
被告人両名の各弁護人は児童福祉法第三四条第一項第七号に規定する「その他児童に対し刑罰法令に触れる行為云々」における刑罰法令とは、殺人、傷害など児童を直接の被害者とする犯罪に対する刑罰法令に限るもので児童が直接の被害者とならない風俗営業等取締法第四条の三、第七条第二項等は含まれないと解すべきであり、また児童福祉法は満一五歳以上の児童が酒席に待する行為はたとえそれが業務としてなされた場合でも放任している(同条第一項第五号)のであるから酒席に待する行為をなさしめる虞のある者等に児童を引渡す場合も、対象児童が満一五歳以上の場合には放任行為として同法の関知するところではないと解すべきである。更に風俗営業等取締法においては、風俗営業者に対し一八歳未満の者に接客行為をさせることを禁じているが、一八歳未満の者を情を知つて風俗営業者に引渡す行為は処罰の対象とされていない。したがつて本件の如く対象児童が満一五歳以上の場合たとえ業として児童を酒席に侍らせる行為をなす虞のある者に児童を引渡したとしても児童福祉法第三四条第一項第七号で処罰される筋合はない。そのことは同条項違反に対する所定の法定刑と接客行為等を禁じた風俗営業等取締法第四条の三、第七条第二項の法定刑とを比較してみても直接接客業務に従事させた風俗営業者の方がそれらに児童を引渡した者より遙かに軽いことからも裏付けられる。したがつて被告人両名の行為は決して好ましいこととは言えないが、法の放任するところであつて無罪である旨主張する。
しかしながら児童福祉法はすべての国民に児童の健全な心身の育成を要請し(同法第一条)、そのために必要な配慮をした立法で同法第三四条の如きも児童をとりまく世の大人達に心身の未熟な児童の健全な育成に有害な行為を網羅的に列挙すると共にこれを禁じたものと解すべきであるから、さきの同条第一項第七号の「刑罰法令」は弁護人等主張の如く限定的に解すべき理由は見出し難く、広く風俗営業等取締法第四条の三等も含まれるというべきである。風俗営業等取締法は業者取締目的の立法とはいえ同法第四条の三等が設けられて一八歳未満の者を接客業務に従事させるのを禁じたのは取締目的と併せて近年とみに少年非行の温床となり勝ちなそれら業務行為から心身の未成熟な者達を保護しようとして児童福祉法の目的としたところに奉仕する意味も否定しえないところであるから両法は互に相妨ぐるものではなく一面共通の目的に奉仕するものがあつて、この面からもさきの「刑罰法令」について限定的に解すべき根拠はないと考える。また、直接接客業務に従事させる風俗営業者とこれらに児童を引渡した者等の法定刑の軽重は所論のとおりとしても児童の心身の健全な育成という前記の立法目的からすれば一定の設備をなし許可を得常に取締の目にさらされている業者と甘言や暴力あるいは児童との特別の関係をかさに児童を売渡すが如き者との間に後者が常に情状が軽く、したがつて刑の均衡を失するという非難は当らない。両法を比較して法は後者を児童福祉の見地から重く処罰すべしとしているものというべきである。したがつて前記の如き弁護人等の立論は独自の法解釈によるものとして採るを得ない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 麻上正信)